日蓮大聖人のおことば 布教誌『宝塔』に連載中の「日蓮大聖人聖訓カレンダー解説」より解説者の役職・所属寺院名などは掲載当時のもの
蔵の財よりも身の財すぐれたり身の財より心の財第一なり
解説:学林教授・大久保 本修寺住職 田中 靖隆
蔵に財宝があっても健康は買えません。身体が丈夫でも心が正しくなければよい人生は送れません。一番の財宝は心が穏おだやかであることです。
今月のお言葉は、身延の大聖人が鎌倉の檀徒、四条金吾氏へ宛てたお便りの一節です。四条金吾氏は北条家一門の江馬氏に仕えた武士でした。大聖人が龍口の刑場で処刑されかけた時には、共に殉じようとするほどの熱心な法華信者で、頼もしい方ですが、気が短い性格でした。この御書は上司の江馬氏との信仰の違いからトラブルになり、謹慎処分だった金吾氏が出仕を許された時に宛てたものです。
大聖人はタイトルにもある「崇峻天皇」の故事を用いて注意とアドバイスをされました。崇峻天皇は聖徳太子の伯父にあたる人で、とても短気な性格でした。聖徳太子は「忍辱の心(何事にも耐え忍ぶ心)をお持ちください」と、ためらいながらも崇峻天皇を思い、あえて進言しました。ですが天皇はその約束を守れず、うっかり言った一言が仇となり、暗殺されてしまいます。
大聖人はこの共通する、短気で怒りっぽい性格を案じ、いかに正直一途で熱い心があっても、すぐに怒り、怒鳴り散らすようでは、仏天の護りは薄いということを示されました。
せっかく積み重ねた功徳や向上した人徳も短気によって、一瞬に壊すことになりかねません。たとえ意に違うことがあっても、言動を慎むと共に、努めて「心の財」を積むことが第一と説かれました。
そして具体的な行動のアドバイスも書いてありますが、何とも現代にも通用することが書いてあります。出仕が許されたからと大手をふらず、よい馬に乗ったり、よい着物を着たりせず、慎ましく謙虚な姿勢でいることが大事で、信心は平素の行動で磨かれます、と助言されています。
この御書は私自身にとっても日常生活の行動を指南してくださるものです。